企業のダイバーシティ推進が加速する中で、「クローズ就労」への関心が高まっています。クローズ就労とは、障害のある人が障害を開示せず、一般雇用として働くスタイルを指すものです。外見から分かりづらい精神・発達障害のある人を中心に選ばれることが多く、個人の働き方の多様性を象徴する選択肢となっています。一方で、必要な配慮や支援を受けにくいことによる課題もあり、企業側の理解と体制整備が不可欠です。本記事ではクローズ就労の基本的な定義から、効果やデメリット、成功に向けた取り組みまで、実務に役立つ情報を詳しく解説します。
「クローズ就労」とは、障害のある人が障害を企業に開示せず、一般従業員と同じ条件で働く就労形態です。「オープン就労」が企業に障害を申告し、必要な配慮を受けながら働くスタイルであるのに対し、クローズ就労は障害者雇用枠に該当せず、法定雇用率の算定対象にもなりません。日本では、障害の非開示に違法性はなく、個人の判断として認められています。特に外見から障害が分かりにくい精神・発達障害のある人の中には、あえて障害を明かさず、一般枠での就職を選ぶケースが増えています。
ただし、障害を伏せることで企業からの支援を受けにくくなるなど、実務上の課題も伴います。クローズ就労は、多様な働き方の実現に向けた選択肢のひとつとして位置づけられていますが、企業側の配慮や体制づくりが求められます。

クローズ就労者は、一般雇用枠で応募するため、求人媒体や採用チャネルに制約がありません。そのため、企業は障害の有無に関わらず幅広い人材に出会うことができ、多様なスキルや経歴を持つ人材を採用できる可能性が高まります。中には高い専門性や豊富な経験をもった即戦力の人材も多く、組織の視野や発想の幅を広げる効果も期待できます。クローズ就労者にとっては、障害を開示しないことにより、職種や業種の選択肢が広がり、採用活動の柔軟性が向上することが魅力です。
クローズ就労では、障害の有無にかかわらず他の従業員と同じ条件下で働くため、業務成果に基づいた評価がされやすくなります。特別な配慮を受けずに、対等な立場で働いたうえで、実力を認めてもらえる環境は、当事者にとって自信やモチベーションの向上につながります。また、企業側も成果重視の評価体制を築きやすく、公平な職場づくりを進めることができます。実際、クローズ就労者の中には昇進や昇給を実現している人もおり、適切な評価制度と人材活用の体制が整っている証にもなります。
クローズ就労者が組織内で活躍する姿は、同僚や上司の中にある「障害者=特別な配慮が必要」という固定観念を見直すきっかけになります。障害を後から開示したとしても、既に信頼関係や実績があれば、自然と受け入れられやすいでしょう。クローズ就労は個々の就労機会を広げるだけでなく、職場の多様性理解を深める一助にもなり得ます。このような流れは、最終的に誰もが働きやすい環境づくりへとつながっていきます。
障害を公表せずに一般従業員と同じ立場で働くことは、当事者にとって精神的な自立を感じられる経験になります。他者と同様に責任ある業務を任されることで、「特別扱いされていない」という実感が得られ、自信と誇りにつながるでしょう。また、障害を理由に業務範囲を制限されることがないため、本人の成長意欲やキャリア形成への意識も高まりやすい傾向にあります。こうしたモチベーションの高さは、就労の継続や企業の成長にも良い影響を与えます。

クローズ就労では、障害の内容を企業が把握していないため、業務内容とのミスマッチが生じやすくなります。たとえば、体力的な制約がある場合に長時間労働が続いたり、発達障害があるにもかかわらず対人業務を担当させられたりと、適切な配慮がなされないケースも少なくありません。不得意な業務を継続することで、パフォーマンスの低下や誤解による評価ダウンを招きやすくなり、結果的に職場での居心地が悪くなる可能性もあります。
障害を開示していないクローズ就労者は、原則として合理的配慮や外部支援機関のサポートを受けられません。就労移行支援事業所との連絡や専門家の助言、業務負担の調整といった支援が受けにくくなるため、業務上の困難を一人で抱え込みやすくなります。結果として、定着率や職場満足度の低下につながる可能性があります。さらに、企業に対しても障害者雇用に関する助成金や法定雇用率などの制度的なメリットがないため、サポート体制の構築が後回しになってしまう傾向があります。
持病や精神疾患など健康上の課題を抱えている場合、障害を開示していないと企業はその情報を把握できず、適切な健康管理や緊急対応が難しくなります。特に発作など急変のリスクがある疾患がある場合、迅速な対応ができないことにより重大な事態に発展する危険性があります。また、年末調整や健康診断の場面などで一部の情報が断片的に共有されても、それが現場に伝わらないことで、配慮の行き届かない体制が続いてしまうリスクも存在します。健康・安全管理の観点からも、障害の非開示には慎重な判断が求められます。
クローズ就労を選んだ当事者は、障害を隠し続けることによる心理的な負担を日常的に抱えることになります。「いつかバレるのではないか」「不調の理由を正直に伝えられない」といった不安が積み重なることで、メンタルヘルスの悪化を招く可能性があるでしょう。加えて、障害を隠しているがゆえに職場内で相談できる相手も限られ、孤独感や疎外感を強く感じることがあります。こうした状態が長く続くと、うつ病の発症や離職のリスクも高まりかねません。クローズ就労は一見自由度の高い選択肢のように見えても、本人が精神的に追い詰められる要素を多く含んでいるのが現実です。

クローズ就労者の定着と活躍を支えるには、柔軟な働き方を実現するための制度や職場環境の整備が欠かせません。たとえば、フレックスタイム制やテレワーク、短時間勤務制度の導入により、体調管理や通院などに柔軟に対応できます。また、全従業員が対象となる制度にすることで、クローズ就労者も気兼ねなく利用しやすくなります。さらに、照明や音の調整、集中スペースの設置など、ユニバーサルな職場環境づくりも有効な手段の一つです。特定の個人に向けた支援ではなく、多様な働き方が自然に実現できる仕組みを整えることが、クローズ就労支援につながります。
クローズ就労者が安心して働くには、職場全体の理解と受容が不可欠です。定期的なダイバーシティ研修や、障害に対する偏見をなくす啓発活動を行うことで、多様な価値観を尊重する文化が育まれるでしょう。特に管理職に対しては、部下の異変に柔軟に対応できるよう、傾聴や観察力のスキルを高める教育が重要になります。また、1on1ミーティングやチーム内での対話の促進によって、「困ったときに相談できる」雰囲気を醸成することも大切です。こうした心理的安全性の高い環境が、障害を開示せずに働く人にとっての大きな支えとなります。
クローズ就労者にとっては、定期的な健康チェックやメンタルケアの仕組みが、表に出にくい課題の早期発見につながります。たとえば、産業医との定期面談や、匿名で利用できる外部EAP(従業員支援プログラム)の導入が効果的です。また、人事や管理職が社内制度についてわかりやすく周知することも重要です。誰もが平等に支援を受けられる仕組みを整えることで、障害の有無にかかわらず利用しやすくなります。表向きの特別扱いではなく、制度に裏打ちされた継続的なケアこそが、クローズ就労を支える鍵となります。
クローズ就労を成功させるには、個別の対応にとどまらず、人材マネジメント全体と連動した支援体制が求められます。たとえば、社内公募制度や異動制度を整え、社員が自身の希望や適性に応じて働き方を選べる仕組みを設けることが効果的です。また、定期的なキャリア面談やスキルアップ研修の提供によって、クローズ就労者も成長の機会を得られるよう配慮する必要があります。こうした施策は、障害を公表していなくても「会社が長期的に自分の成長を支えてくれる」という信頼感につながり、職場への定着率も高まりやすくなります。

執筆者 snaq.me office編集部
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