日本の高齢化が進むなか、従業員が家族の介護と仕事を両立できる環境整備は、企業にとって避けては通れない課題となっています。なかでも、育児・介護休業法に基づく「介護休暇」や「介護休業」は、従業員の離職防止や人材の定着に大きな役割を果たす重要な制度です。
本記事では、両制度の概要や違い、利用できる条件、給付金の内容に加え、メリット・デメリット、そして企業が対応する際の実務上のポイントについて、わかりやすく解説します。
介護休暇と介護休業は、家族の介護を理由に労働者が仕事を休むことを認める制度です。育児・介護休業法に基づき設けられたもので、年次有給休暇とは別枠で取得でき、企業規模を問わず整備が義務づけられています。日本の高齢化が進むなかで、従業員が安心して介護と仕事を両立するための重要な仕組みです。
介護休暇は、通院の付き添いや介護サービス利用の手続きなど、短期的な対応を目的とした制度です。対象家族が1名の場合は年間5日、2名以上の場合は年間10日まで取得ができ、時間単位での利用も可能です。一方、介護休業は要介護状態にある家族を長期的に支えることを目的とした制度で、対象家族1名につき最大93日間の休業が可能です。両制度は対象家族や取得条件に共通点も多いですが、利用目的や日数、給付金の有無といった点で違いがあります。従業員が無理なく介護を担い続けられるようにするため、制度の正しい理解と適切な運用が求められています。

介護休暇・介護休業を整備する最大のメリットは、介護を理由とした従業員の離職を防げる点にあります。日本では毎年多くの人が介護のために職を離れており、特に管理職やベテラン層の離職は、企業にとってスキルや知識の喪失という大きな損失です。制度を整備し、従業員が介護と仕事を両立できる仕組みを用意すれば、キャリアの中断を防ぎ、人材が組織に定着しやすくなります。その結果、経験やノウハウが社内に蓄積され、企業の競争力維持につながります。
介護制度は福利厚生の一環にとどまらず、企業の生産性確保にも直結します。経験豊富な人材が離職する場合、新たな採用や教育に多大なコストと時間が必要となります。しかし、介護休業を活用できれば、従業員は安心して介護に専念でき、職場復帰もスムーズに行えます。これにより、業務の継続性やノウハウの継承が守られます。さらに従業員が制度を安心して利用できることは、心理的安定や仕事への集中度を高め、モチベーション向上にもつながります。このような安心感が日々の業務パフォーマンスを押し上げ、組織の業務改善や持続的な成長に寄与するのです。
介護休暇や介護休業は、従業員が家庭の責任と仕事を無理なく両立するための手段です。通院への付き添いや介護サービスの調整といった突発的な事柄に対応できることは、心身の負担を軽減します。特に介護は長期化するケースも多いため、制度の活用によって「働き続けながら介護する」という選択肢を持つことが可能になります。これは従業員にとって生活の安定とキャリア継続の両立を意味し、企業にとっても欠勤率低下やエンゲージメント向上という効果をもたらします。さらに従業員が家庭を大切にできる環境は、職場全体に良い雰囲気を生み出し、組織文化の健全化にも寄与するでしょう。
介護支援に積極的な企業は、社内外からの評価を高めやすくなります。求職者にとって「介護と仕事の両立が可能な環境」は重要な選択基準であり、制度が整っている企業は魅力的に映ります。既存従業員にとっても制度があることで安心感が増し、自社への信頼や愛着心が強まります。さらに、制度を利用して働き続けている事例を発信すれば、企業文化として「人を大切にする姿勢」が社会に伝わり、CSRやSDGsの観点からも評価を受けやすくなります。このように介護制度は単なる人事施策にとどまらず、ブランド力や採用力を強化する戦略的要素として機能します。

介護休暇は多くの企業で無給扱いとされており、介護休業も雇用保険から支給される「介護休業給付金」が賃金の67%程度にとどまります。そのため、制度を利用すると収入の減少は避けられません。特に住宅ローンや教育費など固定的な支出を抱えている世帯では、長期の休業取得が家計に直接影響を与える可能性があります。家計を支える立場の従業員であればなおさら、経済的な不安から制度の利用をためらうケースも少なくありません。企業が独自に有給制度を導入したり、休業中の手当を補う仕組みを設けたりしない限り、収入補償の不足は制度活用の大きな壁となるでしょう。従業員にとって「休むと生活が立ち行かなくなるのでは」という懸念は、制度利用を妨げる要因になり得ます。
介護休暇や介護休業は法律で保障されている権利ですが、職場の雰囲気や文化によっては利用しづらい状況が生まれます。特に「周囲に迷惑をかけたくない」という心理や、「昇進や評価に悪影響があるのでは」といった不安から、制度を申請しない従業員もいます。実際、調査でも介護離職の理由に「制度を利用しにくい雰囲気」が挙げられており、制度の存在自体が知られていない場合もあります。こうした心理的ハードルは、制度の実効性を損なう要因です。企業は制度を周知するとともに、上司や同僚が利用を歓迎する文化を醸成することが不可欠です。職場全体で理解と支援を共有する仕組みがなければ、法律上の制度も実際には機能しにくくなります。
従業員が介護休暇や介護休業を取得すると、その間の業務を誰が担うかが課題となります。特に中小企業や専門職では代替要員を確保する余裕がなく、特定従業員に業務が集中してしまうことがあります。これにより職場全体の負担が増し、制度利用者への反発や不満が生じる可能性も否めません。また属人化した業務が多い場合、休業中に仕事を引き継ぐ体制が整わず、業務の停滞や品質低下を招くリスクもあります。制度を活用できる環境を整えるためには、平常時から業務分担の見直しやマニュアル化を進める必要があります。対応が不十分だと、制度利用は職場全体にとって負担増と受け止められ、利用しにくい雰囲気を助長してしまう恐れがあります。
介護休暇や介護休業から復帰できない、あるいは復職後にキャリア形成に不利益を被るのではないかという不安も大きな課題です。特に管理職や昇進が視野に入る年代の従業員は、長期間の不在が評価に影響するのではと懸念します。また復職後に配置転換や責任範囲の縮小といった不利益を受けることを恐れる声もあります。さらに、介護休業の上限が93日であるため、介護が長期化すると結局は退職を選ばざるを得ないケースもあります。復帰支援や職場適応のための面談、スムーズな業務復帰プランを整えていない企業では、制度が逆に離職につながるリスクを抱えることになります。従業員が安心して利用できるよう、復職後のキャリア支援策を明確にしておくことが重要です。

介護休暇や介護休業を効果的に機能させるには、法律で定められた最低基準を満たすだけでなく、実際の利用者の状況に即した柔軟な制度設計が求められます。たとえば、介護休業については法定の93日を超える独自の休業期間を認めたり、介護休暇については日単位・時間単位に加え「中抜け勤務」を可能にしたりと、より多様な働き方を認める工夫が考えられます。さらに、申出期限を短縮することで急な介護にも対応できる規定を整えたり、本来は無給とされる介護休暇の一部を有給扱いにすることで、従業員の経済的負担を軽減したりする取り組みも有効です。こうした取り組みは、制度の利用促進につながり、従業員が安心して申請できる環境づくりにつながります。
制度があっても、職場に利用しづらい雰囲気があれば、実際の取得は進みません。そのため、経営層が積極的に介護支援の必要性を発信し、組織全体の意識改革を促すことが欠かせません。経営層が「介護と仕事の両立を支援する」姿勢を示せば、現場にも理解が広がりやすくなります。また、管理職に対しては研修を実施し、介護制度を利用することで従業員が働き続けられるメリットやチーム全体の生産性維持につながる意義を伝えることが有効です。従業員が「お互い様」という意識を持ち、制度利用を前向きに受け止められる職場風土を醸成することが、制度を形骸化させないための基盤となります。
実際に制度を機能させるには、運用体制の整備が不可欠です。休業前には業務の引き継ぎ計画を作成し、代替要員の確保やアウトソーシングの検討を行う必要があります。特定の従業員に業務が集中しないよう、平常時から業務分担を可視化し、属人化を防ぐことも重要です。また、休業中の従業員に定期的に連絡を取り、復職前には面談を実施して職場復帰を円滑に進める支援を行うと効果的です。復職後に無理なく働けるよう時短勤務や配置調整を組み合わせることで、従業員は安心してキャリアを継続できます。制度を利用しても不利益がないという信頼感を醸成することが、長期的な人材定着につながります。
介護と仕事の両立を実現するには、介護制度だけでなく、柔軟な働き方の導入も欠かせません。たとえば、テレワークを活用すれば、自宅で仕事をしながら介護に対応できます。加えて、時短勤務や残業免除の制度を組み合わせれば、フルタイム勤務が難しい状況でも働き続けやすくなります。さらに、フレックスタイム制を取り入れることで、介護が必要な時間帯を避けて勤務することも可能です。介護休暇や介護休業と多様な勤務制度を組み合わせることで、従業員が最適な両立方法を選べる環境を整備することができます。結果として、従業員の負担は軽減され、企業にとっても安定的な労働力の確保につながります。

執筆者 snaq.me office編集部
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